障害の紹介②

こざるの紹介

口唇口蓋裂・顎裂 

疾患の解説

唇裂しんれつとは、生まれつきくちびるから歯ぐきにかけて裂け目が見られる形態異常です。一方、口蓋裂こうがいれつとは、口の中の天井部分(口蓋といいます)からのどちんこ(口蓋垂こうがいすいといいます)の部分にかけて裂け目がみられる形態異常です。唇裂と口蓋裂は合わさって生じることも多く、その場合は唇顎口蓋裂しんがくこうがいれつあるいは口唇口蓋裂こうしんこうがいれつなどと呼びます。裂け目は、右側、左側、両側に生じるものがあり、裂け目の幅や長さの程度も様々です。
唇裂・口蓋裂は顔のほぼ真ん中の最も目立つ部位に裂が現れるので、本人をはじめ、ご両親・親族の方の精神的負担が大きな病気といえます。しかし、治療法の進歩により唇裂・口蓋裂手術の結果は飛躍的に向上していますので、ご安心ください。

一般社団法人 日本頭蓋顎顔面外科学会https://www.jscmfs.org/general/disease02.html

原 因

500~600人に1人の割合で生じる比較的頻度の高い生まれつきの形態異常ですが、原因は分かっていません。一般的には、環境因子と遺伝因子が複雑に影響しあって生じていると考えられています。原因となる遺伝因子は一つではなく、いくつかの遺伝子が複雑に絡み合っており、誰もがその因子を持っている可能性があると考えられます。その遺伝因子に、高齢出産・ストレス・タバコ・薬剤・ウイルス感染・栄養などの環境因子が絡むことで唇裂・口蓋裂が発症すると現在では理解されています。

一般社団法人 日本頭蓋顎顔面外科学会https://www.jscmfs.org/general/disease02.html

治療方針他詳しい事は、Medical note.口唇口蓋裂の記事も読んでみてください。こざるの形成手術でお世話になっている先生が書いていました。

口唇口蓋裂治療/こざるの場合 

妊娠中に超音波検査で唇裂はわかっていたので、その時に医師から口唇口蓋裂の場合の治療に関して概要を聞いていました。 

一般的な治療方針

① 生後すぐ頃から、口蓋裂による口の中にある上顎の骨の成長への影響を少なくする(又は補助する)ために、”ホッツ床”というシリコン製の装具を上顎に付けます。(型取りして作る) →哺乳の際の補助も兼ねていて、これが無いと飲んだミルクが鼻からすぐ出てきます。

② 生後3ヶ月頃(こざるの場合は5kgになってから)開いたままの上唇と小鼻手術で縫ってくっつけます。これで基本的に唇裂治療は終わり。(成長時に上唇の形成手術をすることもあります。)

③ 1歳位で口の中で上部にある口蓋をくっつける手術をします。これで食べ物が鼻から出て来ることはなくなります。これで口蓋裂の治療も終わり。

口蓋裂があると、鼻の骨や軟骨が大なり小なり変形しているので、鼻関係の形成手術が適宜必要になります。鼻筋(鼻の骨部分)は体が成長しきってから(中3〜高校生の間に)真っ直ぐにする形成手術を行います。

④ 顎裂は上の歯茎が欠損して割れているいる状態で、赤ちゃんの時は割れているのがわかりますが、歯茎の成長と共にパッと見わからなくなります。

それでも発音に影響したり、永久歯の生え方に影響したりするので、体の骨がある程度しっかりし成長してから(目安10歳)骨盤のところにある腸骨の一部を使って骨移植手術をして歯茎の土台を作り、その後歯の矯正治療を始めます。

⑤ 言語訓練や耳鼻科での定期的な診察(中耳炎になりやすい)が必要に。

こざるの場合

① 脳梁低形成の影響で嚥下の時の喉の反射機能が弱く、誤嚥や窒息の危険性があり、ホッツ床の作成と使用は出来ませんでした。この時から経管栄養(鼻から注入)の生活です。

② 一般的には3ヶ月で唇裂手術だそうですが、こざるは生まれた時の体重が1300g弱だったので、なかなか5kgにならず、5ヶ月でようやく出来ました。(上唇を閉じてから、鼻から鼻ちょうちんが出たことがあり感動。手術前は開口部が大きくて出来ようがなかったので)

③ 体の大きさと他の手術との関係で、口蓋裂の手術は2歳でした。一般的には1歳で食事訓練に合わせるそうですが、こざるは経管栄養だったので、急ぐ必要なしとの判断でもありました。

あと、こざるの場合口蓋を閉じると、場合によっては呼吸が苦しくなるかもしれないと言われていました。(口から鼻に抜ける部分が以前より狭くなるので。)

別件で気管切開をしているので、結果的に現在呼吸の心配はなくなりましたが・・・。

④ 小鼻と上唇の修正手術を6年生の時にしました。

⑤ 顎裂のための骨移植手術は、未だしていません。(15歳現在)

レントゲンで見た永久歯の生え方から、時期は気にしなくていい事、これから先必要な他の手術などの諸事情により、全ての手術の中で一番最後にすることになりました。

骨移植と歯の矯正はワンセットなので、術後に歯の矯正用の金具が他の手術の時の画像検査で邪魔になってしまうそうです。

医療的ケア他こざるのケア生活が大変な事をご存知の、矯正歯科の先生が、歯の矯正を始めたら歯磨きなどの歯の管理も大変になるので、これ以上お母さんに負担はかけられないし、そこまで優先順位は高くないとも言われました。

今のところ、予定では高校卒業後になりそうです。その頃には、こざるの身辺自立も随分出来ていて、歯の管理に集中できるようになるかなと思います。

また、顎裂で右上歯茎の部分が欠けていますが、実は右の頬骨も広範囲で欠損しているそうです。

治すには同じように骨移植なので、通常骨盤にある腸骨の一部を左右どちらか使う事で問題ないのですが、こざるは範囲が広いので、左右両方でも足りないかもしれないと。

体がしっかり大きくなてからでも出来るそうなので、そういう意味でも手術は先延ばしになっています。

口蓋裂関係の手術で大変な事

唇裂・口蓋裂の手術は乳児期にするので、触ってはいけないと言ってもわかりせん。本能的に口を触りたがるので、触らないように気をつけるのが苦労します。

病院の方でも対策は考えていて、手術前準備として両肘が曲がらないように厚紙を布で巻いた装具を作るように言われました。Medical note.口唇口蓋裂の形成術について

{余談ですが。こざるが新生児の頃は、目が見えて物を認識出来ているかすらよくわからなかったのですが、装具が付いて思うように曲げられない自分の腕を見て、不思議そうに腕を上げたり下げたりしていたのです。その様子を見て、初めて、こざるはちゃんと目が見えて、物を認識出来ているんだとわかりました。}

こざるは経管栄養だったので、術後の食事で苦労はしなかったのですが、普通に哺乳していたり離乳食食べたりしている子はなかなか苦労したそうです。

あと顎裂手術の骨移植をした子供の場合、腸骨の一部を取るので術部が長い事痛くて辛いそうです。

  • 口の中が術部なので食事も思うように出来ない。
  • 腸骨を手術しているので腰も痛くて思うように動けない。
  • でも病気じゃないから体は元気。

10歳ぐらいの子供がこれはツライ!

そして付き添いで居る親御さん(主にお母さん)がこの子供の不機嫌に付き合いながら、入院中2週間も術後ケアに気を配らないといけないので、これもしんどい!

こざるはまだ未体験ですが、入院で同室になったお母さんから伺いました。

こんなしんどい思いをする骨移植。でも頑張るだけの価値はあると思います。

そのままでは歯並びがとんでもなくガタガタで、虫歯も気になりますが噛み合わせの悪さが一番気がかりです。

こざるは中1から誤嚥の心配なく食事訓練を始めて、今ではほぼ普通食(形態は一口大ですが)になっています。通常発達の子供さんなら3〜4歳児ぐらいの食事状態かも。

食事の様子を見て気になるのが、上顎の発達が悪いので、下顎に比べて小さく受け口の形なことです。

そのせいか食べ物を前歯で噛み切る事がまだ苦手で、うどんやラーメンなど柔らかい麺を切るのも苦労しています。

また、口の中で噛んでいるはずなのに、歯ぎしりの音が聞こえたりします。上手く奥歯が使えていないのでは、という感じです。

こざるのことなので、全部が全部歯の矯正をしていないから、との事とは限らないですが。

矯正歯科の先生からは、上顎を治して歯の矯正が出来れば、改善されると思う、と言われました。

歯並び・噛み合わせが悪くて体調が良くなくて、大人でも歯の矯正で症状を改善させる事がありますよね。

こざるも体調に影響が出ないうちに、歯の矯正までちゃんと出来るといいな。

再生医療はまだ使えない

必要な事とはいえ、小さな子供に自分の体からの骨移植は、避けれるものなら避けたいですよね。

こざるは頬骨の事もあるので、骨移植以外の方法がないか、形成外科の先生に聞いてみた事があります。

頬骨に関してはシリコンで代用が可能とか。ただ困ったことに、顎裂の手術は育成医療の対象で補助が出ますが、シリコンを使うとそのせいで手術が保険適用で無くなるんだとか。(美容整形扱いになる)

こざるには小耳症で耳介形成のために、骨移植のような事をする必要もあり、「再生医療が使えたら体の負担が少なくて済んで助かりますよね」と聞いてみました。

ところが悲しいことに、「メディアで報道されてるけど、実用化するほどには再生医療は進んでないんだよ」、と言われました。

確かにまだips細胞では”膜”までしか作られていません。”ある程度の量の骨”ができるようになるのはまだまだまだ先の話のようです。

将来的に再生医療が口蓋裂関係で使えるようになったら、顎裂とか赤ちゃんのうちに治せたり出来ないかな。

こざるの歯を見ていると、赤ちゃんの頃は歯茎の割れは気になるものの、乳歯が生えた頃は歯並びはまだそんなにひどくなかったです。

それが、成長して顎が発達してと大きくなるにつれ、どんどん歯並びが変わっていったので、まだ赤ちゃんの頃に手術が出来れば違ったのかなー、と思ってしまいます。

ただ矯正歯科の先生の話を聞いていると、レントゲンで歯の生え方(まだ出てきてない永久歯も写っている)を見てからでないと触れないものなのかな、とも思ってみたり。

何にせよ骨移植をしない方法が早くできて欲しいと思います

皮膚にしても骨にしても、自分の組織の移植が必要な形成手術をする事は、子供には辛い話です。

少しでも負担が軽くなるよう、再生医療の進歩が待たれます。

発達や他の障害により状況は変わる

発達に遅れがない子供の場合は、概ね予定通りの手術が出来ると思いますが、発達が遅い(又は知的に障害がある)場合は、予定通りとはいかず、場合によっては、手術が出来ないこともあるそうです。

唇裂・口蓋裂は大丈夫と思いますが、顎裂→歯の矯正となると、歯の矯正用に口の中や歯の並び方がわかる写真を撮らなければならず、口に器具を入れての撮影は、口の刺激に過敏だったり、そもそも押さえられるのが苦手で暴れ出す子には、かなり難易度が高いことです。

さらに各種レントゲン検査もあり、通常のレントゲン検査よりも長い時間じっと動かない姿勢でいなければならないので、集中力が持たず、上手く撮影できないこともあります。

最難関は歯型をとる事です。口の中に粘土のようなものをガッツリ入れられるので、刺激過敏の子にはとてもハードルが高いです。

これらの資料が揃わないと、歯の矯正の育成医療の申請が出来ないそうなので、手術そのものが出来ない事になってしまいます。

口の中が過敏だったこざるの場合

こざるは赤ちゃんのころから、あまり口から物を食べていなかった事もあって、とにかく、口に異物が入るのを嫌がりました。小児科で口の中を診るのに、舌を押さえる器具もほとんど使わせてくれないほどです。(これは今でも・・)

そんな状態なので、写真など資料を揃えるのは大変でした。食事をしていないので大口開ける事もまず無いのに、限界ギリギリまで口を広げて、写真を撮ったり歯形を取ったりするのです。

何度も病院には通いましたが、まずは口に撮影用の器具を入れることに慣れることから始めました。

家でも慣れる訓練をしました。

  1. 百均でプラスチックの小さい靴べらを買ってくる。(形状が近かった)
  2. それを器具に見立てて、スタッフさんがしていたように口に入れられるまで、少しずつ慣らす。
  3. その状態を写真に撮って、何をしているか理解出来るようにする。(歯が並んでいる写真を撮る事を理解してもらう)

病院では器具の材質がステンレスなので、余計嫌がり苦労しましたが、何とか写真撮影クリア!

レントゲン撮影は2回ぐらいでクリア。最後は最難関歯形取りです。

当時のこざるは本当にゴム素材が苦手で、風船を見ただけで逃げたり、輪ゴムも嫌いで触る事もできないのに、過敏な口の中に粘土のようなゴムを口に入れて、噛んで歯形を取るのは正直可能とは思えませんでした。

  • それでも病院には少しずつ素材やする事に慣れてもらえるように通い
  • 結局使えなかった型取り用のゴムを貰ってきて、家でも手で触れるようになるところから慣れてもらい
  • 口に入れる真似事にも慣れてもらい
  • ゴムが型取り出来る物とわかるよう、実際に型を取って(何を型取りしたか忘れましたが)何をするためのものか理解してもらえるよう、納得できるよう工夫
  • 病院へ通う度に頑張ったご褒美として、当時アニメで見て絵柄が好きだったカードゲームのカードを買って、少しでも進歩した事を褒める

何回通ったか覚えてませんが、約週1回、2ヶ月ぐらいかけて歯型までクリアしました!(通常なら1回の受診で終わる)

感無量です!根気よく付き合ってくださった、先生他スタッフの方、ありがとうございました。

これがこざる小学2年生の時でした。(歯型まで出来た時、支援学校の担任の先生も喜んでくれました。)

この間ずっと口に物を入れる訓練をしていたからか、それまでほとんど摂食訓練に興味がなかったこざるが、興味を持ち始め、ペースト食を口に入れてくれるようになりました。

半年ぐらい経った頃から、毎日ごく少量ながら、自分でペースト食が食べられるまでになったのです。(誤嚥の心配があったので少量のみ)

そして3年生の時、初めて誕生日にロールケーキを(ロウソクの時だけ原型のままで、その後ペーストに)食べました。

生後9年目にして初めての誕生日ケーキです。それまでは、親がお祝いしているのを見てるだけだったのですが。

口蓋裂関係の手術は準備も手術も術後も大変です。でもこざるは一つ一つクリアしながら、確実に成長をしています。

耳は聞こえない言葉も話せないこざるだけど、サポートする親が”これから何をするのか”、理解出来るまで根気よく工夫しながら伝えると、ちゃんと理解して出来るようになるんですよね。

親も日々忍耐と精進です。

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